東山魁夷の生誕110周年を記念した大回顧展が、国立新美術館で開催されています。
会期はわずか36日間と短いので、私も早めに足を運んだのですが、駆け付けてよかったという思いでいっぱいです。
国民的日本画家として知られている魁夷。清らかで澄みきった風景画を、数多く描いています。初期の作品から絶筆を含めた晩年の作品が、この展覧会に集結しています。
魁夷の風景画を眺めていると、山の頂に立って清々しい空気を深呼吸しているような、そんな思いに満たされました。
「いつまでもここで眺めていたい」と感じられた展覧会です。
以下、展覧会の感想を書きますね。
「国民的日本画家」東山魁夷について
東山魁夷は昭和を代表する日本画家です。
終戦前後に父と母を亡くし、空襲で家も失って、どん底を味わいました。
そんなある日、千葉県にある鹿野山の頂に座って、日没の光が峰々を染めていくさまを目にしました。そこで風景と心が重なるような、充実感を覚えたんですね。
その風景を描いた《残照》が画壇で認められて、それをきっかけに人気画家となりました。
(《残照》は本展でも観ることができます。本当に山の頂で夕映えを眺めているような気分になりますよ。おすすめ)
東山魁夷は日本だけでなくヨーロッパも旅して、そこで出会った風景を元に次々と作品を生み出しました。
「青の巨匠」という異名もあるくらい、青の色合いが特に素晴らしいです。
(もちろん、赤や黄色の暖色も素敵です)
展覧会の見どころについて
1章 国民的風景画家
2章 北欧を描く
3章 古都を描く・京都
4章 古都を描く・ドイツ、オーストリア
5章 唐招提寺御影堂障壁画 間奏 白い馬の見える風景
6章 心を映す風景画
展覧会は6章仕立てです。
キャリアの初期から晩年にかけて、日本とヨーロッパを描いた作品を、バランスよく味わうことができる構成ですね。
- ポスターやチラシにも採用されている代表作の《道》(上の写真がそうです)
- 北欧の凍てつく空気が感じられる《冬華》《白夜光》
- 京都の懐かしい風景画である《月篁》《花明り》
おすすめしたい絵は、数多くあります。
5章は特に圧巻。唐招提寺御影堂障壁画が、そのまま「再現」されています。
「再現」というと、ちょっとピンとこないでしょうか。美術館のなかにお堂が建てられて、その襖に描かれた絵を眺められるような感じです。これは広々とした国立新美術館だからこそ、実現できる企画ですね。
そのあまりの大きさに、私は思わず「うわー」と声を上げそうになりました。
でもこの展覧会においていちばん感動したのは、5章の障壁画ではありません。この後に描かれた、6章の晩年の作品でした。
というのも、美術館に掲げられたパネルに、こんな文章を見つけたからです。
白馬に導かれるように《唐招提寺障壁画》を完成させた東山は、この時はじめて、描くことは「祈り」であり、それであるならば、そこにどれだけ心を籠められたかが問題で、上手い下手はどうでもいいことなのだと思うに至りました。信じがたいことではあるが、これまでずっと自分には才能がない、と、思い続けていた画家は、やっと、自分が描き続けることの意味を悟り、価値を見出すことが出来たのです。
「え?東山魁夷は、自分には才能がないと思っていたの?」
1章から5章まで観て、才能をまざまざと感じていた私は、そのことにびっくりしました。
でも、絵というのは技術を超えたところにあるんですね。
「描くことは祈り」
「上手いか下手かはどうでもいい」
この言葉に、本当に胸を打たれました。
そのような境地に立って描かれた心象風景を目の当たりにして、なんだか泣けてきました。
《白い朝》《行く秋》《木枯らし舞う》、そして絶筆となった《夕星》。どの絵も理屈抜きで感動しました。
東山魁夷が心で描いた絵を、私も心で観ることができて、本当によかったです。
会期は12月3日まで。興味がある方は、ぜひ急いで足を運んでくださいね。
コメント
昔、美術好きな彼女と付き合ってた時に香川県の瀬戸大橋のふもとにある東山魁夷美術館に連れていかれたことを思い出しました。
たなおさん、はじめまして!
コメントありがとうございます。
東山魁夷の美術館が香川県にあるんですね!
今ちょっと調べてみたところ、東山魁夷の祖父が香川県出身のため、その縁で建てられた美術館みたいです。
私もいつか行ってみたいです。